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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2604号 判決

原告 出川ひろ子 外三名

被告 東京計器労働組合 外二名

主文

一  被告らは、原告らに対し、別紙(一)記載の仕様による謝罪文を一回掲載のうえ、被告組合の組合員全員に配布せよ。

二  被告らは、各自、各原告に対し、それぞれ金三〇万円及びこれに対する昭和五九年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告らに対し、別紙(二)記載の仕様による謝罪文を一回掲載のうえ、被告組合の組合員全員に配布せよ。

2  被告らは、各自、各原告に対し、それぞれ金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  2につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 訴外株式会社東京計器(以下「会社」という。)は、東京都大田区南蒲田二丁目一六番四六号に本社及び本社工場を、栃木県矢板市、那須郡那須町に各事業所を置き、東京をはじめ全国主要都市に営業所をもち、航空計器、船舶計器、油圧機器等の製造・販売を業とする従業員約二〇〇〇名を擁する会社であるが、右会社には現在、いずれも会社従業員で組織する日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部東京計器支部(代表者執行委員長立石憲市郎・組織人員六二名、以下「全金支部」という。)と、被告東京計器労働組合(代表者執行委員長押谷国孝・組織人員約一五〇〇名、以下「被告組合」という。)の二つの労働組合が存在する。

(二) 原告出川ひろ子、同大木典子、同五十嵐康子、同本山陽子(以下「原告ら四名」という。)は、いずれも全金支部の組合員であり、全金支部の女性組合員は原告ら四名のみである。

(三) 被告組合は、前記のとおり会社従業員約一五〇〇名をもつて組織する労働組合であり、登記によつて法人格を取得している。

昭和五八年二月二八日、同年三月一四日当時、被告大谷仁三(以下「被告大谷」という。)は、被告組合代表者執行委員長であり、被告下川逸夫(以下「被告下川」という。)は被告組合書記長として被告組合機関紙「しんろ」の発行責任者の地位にあつたものである。

2  (本件記事掲載に至る経緯)

(一) 被告組合は、昭和五六年三月三日、会社統合にともなう組織統一の名のもとに組合規約を改訂のうえ、日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下「全金本部」という。)及び同組合東京地方本部(以下「地本」という。)に脱退届を提出した。しかし、右脱退は全金本部規約に違反するものであつたため、全金本部及び地本はこれを無効とし、支部再建のためその指導統制権に基づき脱退に反対する全金支部組合員有志約五〇名をもつて支部組織の体制建て直しをはかり、全金支部として今日に至つている。

(二) 被告組合は、右組織分裂後、組織的対立、競合関係にある全金支部及びその所属組合員に対しいわれなき攻撃をくり返し、とりわけ被告組合の機関紙「しんろ」のコラム欄「みどりの小箱」に全金支部及びその所属組合員に対する侮辱的な記事をこれまでしばしば掲載し、誹謗、中傷のかぎりをつくしてきた。

すなわち、被告組合は、全金支部の存在を否定し壊滅すること及び支部組合員を職場から孤立させ退職に追いやることを意図して、前記「みどりの小箱」欄において全金支部を「分派集団」等と呼び、あたかも被告組合の分派集団であるかの如く主張し、全金支部及び支部組合員を「病的で性格の暗い精神異常者」等聞くにたえない呼称をもつて呼び、更に、全金支部及び支部組合員があたかも訴外会社の経営・生産を不当に阻害する「企業破壊集団」であり、仕事もしないで給料をとる「扶養家族」であり、被告組合の組合員の生活を虫食い踏みにじつている「寄生虫」であるかのごとく悪罵をくり返し投げつけてきた。

3  本件記事の掲載及び配布

(一) 被告組合は昭和五八年二月二八日、同日付「しんろ」(三七期No.21、以下「本件第一文書」という。)の「みどりの小箱」欄に別紙(三)記載の記事(以下「本件第一記事」という。)を掲載し、これを被告組合の組合員全員に配布した。

(二) さらに被告組合は同年三月一四日、同日付「しんろ」(三七期No.23、以下「本件第二文書」という。)の「みどりの小箱」欄に別紙(四)記載の記事(以下「本件第二記事」という。)を掲載し、これを被告組合の組合員全員に配布した。

4  (名誉毀損)

本件第一記事は原告ら四名を「チビ・ブス」と評価し、本件第二記事は「性格ブス」「人格チビ」と評価して「まともな社会生活ができない輩」と事実を摘示し、いずれも原告ら四名がはみだし者であつて職場から排斥されるべき存在もしくは社会生活上の欠陥者であるかのような印象を与え、婦人であり労働者である原告ら四名の人格的価値に対する社会的評価を低下させるものであり、その名誉を毀損するものである。

5  (被告らの責任)

(一) 被告下川は、本件各記事掲載当時、被告組合の書記長であり、被告組合の機関紙「しんろ」の発行責任者として本件記事掲載及び文書配布が原告ら四名の名誉を毀損するものであることを認識して本件文書を発行した。

(二) 被告大谷は、本件記事掲載当時、被告組合の代表者執行委員長であり、被告組合の組合活動として行われた違法な本件記事の掲載及び文書の配布が行われないよう注意してこれを阻止する義務があるのにこれを怠り、本件記事の掲載及び文書の配布を容認した。

(三) したがつて、被告下川及び同大谷はそれぞれ民法七〇九条により、被告組合は民法四四条一項により、原告ら四名の後記損害を賠償し、填補する責任がある。

6  (損害)

原告ら四名は本件各記事の掲載・文書の配布により名誉心を著しく害され、婦人あるいは労働者としての名誉を毀損されたばかりか、その結果、職場内で様々な嫌がらせを受け、職場八分の状態におかれるなどしたため、甚大な精神的苦痛を被つた。これを慰藉するには被告らに各原告に対し、それぞれ一〇〇万円の支払をなさしめるのが相当であり、また、原告ら四名の名誉を回復するためには請求の趣旨1記載の謝罪文の掲載及び配布が必要であり相当である。

7  よつて、原告らは被告らに対し、不法行為に基づき、請求の趣旨1記載の謝罪文の掲載・配布を求めるとともに、損害賠償として連帯して、各原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五九年三月二四日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

一  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実はいずれも認める。

2(一)  同2(一)の事実のうち、被告組合が規約改正のうえ昭和五六年三月三日全金本部に脱退届を提出したことは認め、右脱退が全金本部規約に違反していることは否認し、その余は不知。

(二)  同2(二)の事実のうち、原告主張の各文言が被告組合の機関紙「しんろ」のコラム欄「みどりの小箱」に存することは認め、その余は否認する。

3  同3の事実はいずれも認める。

4  同4の事実は否認し、主張は争う。

(一) 本件第一記事については、原告ら四名の氏名は掲記せず、しかも原告ら四名のうちの何人がチビに、何人がブスに該当すると思つているかについての特定もなく、したがつて対象に関する記述自体極めて漠然とした表現であつて特定性を欠いている。また、「チビ」なる語は愛称でこそあれ些かも侮辱的意味を含む言語ではなく、「ブス」なる語も一般に個性的・活動的で愛嬌のある女性の顔相をさす単なる流行語であり、現在では古典的美人に対立する意味での不美人といつた侮蔑的意味は消滅しており、いずれも侮辱に該らない。更に、女優・モデルなど特殊の職業に従事する場合は別として、人の容ぼうの美醜・身長の高低をもつて人の価値ないしは婦人労働者としての価値を評価することはなく、原告ら四名は訴外会社の従業員という一般婦人労働者であるから、その容ぼう・身長について言及することは名誉を毀損すべき行為に該当しない。

(二) 本件第二記事については、右記事は一般論としての性格ブス・人格チビを論じており、原告ら四名が右に該当するとは述べていない。

(三) 仮に本件各記事中において原告ら四名を若干からかうごとき言辞があつたとしても、これは原告ら四名が被告組合の規約に違反したことに起因するものであつて、自ら招いた事態といつても過言ではなく、被告らの行為の態様・程度と原告ら四名の分派活動・組合規約違反等の各行為との相関関係からみて被告らの本件各記事の掲載・各文書の配布行為には違法性がない。

すなわち、

(1) 被告組合は、昭和二九年五月一九日以降その名称を日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部東京計器支部といい、これより先、昭和二六年六月八日に全金本部に組合単位で加盟していたが、訴外会社が栃木県所在の子会社三社(新東京計器株式会社、東京ピツカース株式会社、第一東京計器株式会社)を吸収合併するのにともない、右子会社の従業員で組織する労働組合との組織統一をはかるべく、上部団体である全金本部から脱退する方針を定め、昭和五六年二月一九日ころその名称を被告組合の現名称である東京計器労働組合と変更したうえ、組合単位での全金本部からの円満脱退につき交渉を重ねたが妥結に至らず、会社合併の期日が切迫したためやむなく被告組合規約に基づき、昭和五六年二月二七日開催された第一八八回臨時大会の決議及びその後行われた無記名投票を経て、同年三月三日全金本部を組織脱退し、同日全金本部に脱退届を提出した。右被告組合の全金本部脱退は組織単位の脱退であり、脱退に反対の組合員を含めての脱退、いわゆるひきさらいの効果を有するものであつた。

(2) しかるに、右脱退に反対するもののうち原告ら四名を含む一部の者は、被告組合の規約に基づく組合としての意思決定を無視し、右脱退は無効であると主張して、約六〇名が昭和五六年三月五日ころ以降も被告組合の旧名称である総評全国金属東京地方本部東京計器支部(全金支部)が存続し自己らをその組合員であると称し、全金支部こそが全金本部脱退以前の被告組合と同一性を有する組合であり、被告組合は分裂の結果全金本部を集団脱退した人々により結成された組合であると主張して分派活動を始めた。

(3) 被告組合は、これに対し、昭和五六年五月一八日右分派活動の中心人物八名を、昭和五八年三月二三日原告ら四名を含む五四名をそれぞれ除名した。

原告らが被告組合の構成員として活動することができないのであれば、同人らには被告組合を脱退するという方法が残されていたにも拘らず、あえて原告らは脱退手続をとらずに分派活動を継続して被告組合内部に混乱を来さしめようとし、遂には昭和五八年一月から三月にかけて組合費の支払という組合員としての最低限の義務の履行すら怠るに至つた。

(4) 本件各記事掲載・各文書配布は、右組合費不払中に行われたもので、右のとおり被告組合の労働運動の根幹にかかわる全金本部脱退という重要な組合の意思決定についてこれを無効であると頑なに主張して分派活動をし、組合費の支払義務を怠る原告ら自身の言動に起因するものである。

5(一)  請求の原因5(一)の事実のうち、被告下川が本件各記事掲載当時、被告組合の書記長であり機関紙「しんろ」の発行責任者であつたことは認め、その余は否認する。

(二)  同5(二)の事実のうち、被告大谷が本件各記事掲載当時被告組合の代表者執行委員長であつたこと、本件各文書の発行、配布が被告組合の組合活動として行われたことは認め、その余は否認する。

(三)  同5(三)は争う。

6  同6の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求の原因1(当事者)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  請求の原因2(一)、(二)(本件各記事掲載に至る経緯)の事実のうち、被告組合が規約改正のうえ昭和五六年三月三日全金本部に脱退届を提出したこと、被告組合の機関紙「しんろ」コラム欄に原告主張の各文言が存することは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない甲第一号証の一ないし三六、第二号証の一、二、原本の成立及び存在に争いのない甲第五、第八号証、証人相川城年の証言、原告出川ひろ子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

1  従来訴外会社の従業員で組織する日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部東京計器支部(以下「旧組合」という。)は、訴外会社における唯一の労働組合であつた。旧組合は昭和二六年六月八日以来全金本部に加盟していたが、昭和五二年一二月ころ訴外会社が栃木県所在の同社の子会社三社を吸収合併する方針を決定、発表し、右子会社三社の各労働組合のうち、第一東京計器労働組合及び東京ピツカース労働組合の二者が全金本部と異なる上部団体である全国金属産業労働組合同盟に加盟していたため、昭和五四年一二月旧組合及び右子会社三社の各労働組合の四組合の役員をもつて組織統一検討委員会を発足させ会社統合に伴う組合の組織問題につき検討した結果、上部団体を有する旧組合を含む三組合は各々上部団体から脱退して組織統一をはかることとなつた。右のような状況で旧組合は上部団体である全金本部と組合単位の脱退につき交渉を重ねたが妥結に至らず、昭和五六年二月一二日開催の組合臨時大会の決議及び同月一六日の組合員の直接無記名投票により名称を被告組合の現名称である東京計器労働組合と変更して同月一九日その登記手続をし、更に組合規約を改訂したうえ、同年二月二七日開催の組合臨時大会の決議及び同年三月二日の組合員の直接無記名投票を経て同年三月三日全金本部からの脱退を決定し、同日全金本部に脱退通知をした(以上の外形的事実は当事者間に争いがない。)。

これに対して、旧組合員であつた原告ら四名を含む約六〇名は、右集団脱退は全金本部規約に違反するもので無効であり、旧組合は全金本部に加盟したままの状態で存続するとして全金本部及びその組合員として踏みとどまり全金本部及び地本の指導統制権のもとに全金支部組織の建て直しをはかり、他方訴外会社に対しては、昭和五六年三月五日ころ支部臨時大会を開いて新役員を選出したうえ、全金本部・地本及び全金支部の三者名で組合員の氏名を通知するとともに団体交渉を申し入れた。

訴外会社は、当初これを拒否したが、右三者が東京都地方労働委員会に不当労働行為救済の申立てをし(都労委昭和五六年不第三八号事件)、都労委は昭和五七年三月一六日訴外会社の全金支部に対する団体交渉拒否を不当労働行為として救済命令を発し、訴外会社はこれを不服として中央労働委員会に対し再審査申立てをしたが(中労委昭和五七年(不再)第二二号事件)、中労委は昭和五七年一二月一日再審査申立てを棄却する命令を発して、右命令は確定し、訴外会社は翌昭和五八年一月ころから、全金支部の組合としての存在を認めるとともに、団体交渉に応ずるようになつた。

2  一方被告組合は、全金本部脱退は組合単位の脱退であるからこれに反対の組合員をも拘束し、したがつて全金支部組合員として活動する者も脱退しない限り被告組合の組合員であるという立場をとりつつ、昭和五六年五月一八日、分派活動を理由として、全金支部の役員八名を被告組合から除名し、昭和五六年九月に開かれた被告組合定期大会において全金支部と対決し、これを消滅させることを宜言する等、全金支部及びその組合員との対立姿勢を強めていつた。

そして被告組合は被告組合がその組合運動の一環として週刊で発行し全組合員に配布する機関紙「しんろ」とりわけ、そのコラム欄「みどりの小箱」において、全金支部及びその組合員を「分派集団」「全金分派」「分派組合」「日共分派」、「寄生虫」「仕事もせずに給料をとる扶養家族」「病的で性格が暗い精神異常者」「日共類分派目ジヤマ科の害虫」などと表現し、全金支部の組合員を訴外会社の従業員から排除することを執拗に訴え続けてきた。

3  被告組合の執行委員会は、昭和五八年二月一九日、全金支部の組合員のうち既に除名された八名を除く五四名を除名すべく被告組合の査問委員会に対し告発することを決定し、同月二一日、同日付「しんろ」本文及びコラム欄「みどりの小箱」及び本件第一文書たる「しんろ」本文にその旨掲載するとともに、被告発人全員の氏名、職場を明記した同日付告発書を被告組合の組合員全員に配布した。右被告発人五四名のうち女性は原告ら四名のみであつた。

以上の事実が認みられ、右認定に反する証拠はない。

三  請求の原因3(本件各記事の掲載及び文書の配布)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

四  請求の原因4(名誉毀損の成否)について判断する。

1  民法七二三条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいい、名誉毀損とは右の如き社会的評価を低下させる行為である。そしてその成否はその人の社会における位置・状況等を参酌して考慮するべきであり、特定の文書に掲載された記事の内容が人の名誉を毀損するものであるか否かは、その記事を読む者、本件では被告組合の組合員の通常の読み方を基準として判断すべきである。

2  本件第一文書に本件第一記事が、本件第二文書に本件第二記事がそれぞれ記載されていることは当事者間に争いがないところ、前記二において認定した事実によれば、右記事がいずれも全金支部組合員であり、当時被告組合により査問委員会に告発された五四名の内女性である原告ら四名を対象とするものであることは明らかであり、本件第一文書の「チビ・ブス」という表現、本件第二文書の「性格ブス」「性格が悪いこと」「人間として、成長していない」「人格チビ」「いい年をしてまともな社会生活ができない輩」「根暗の偏執狂」という表現は、これらの記事を読む者をして、女性であり、訴外会社の従業員である原告ら四名がその容姿、品性、徳行、社会的ないし職場における適応性について劣つているとの印象を与えるものというべきである。

被告らはこの点について、今日「チビ・ブス」なる語は侮辱的意味はなく単なる流行語である、人の容ぼうの美醜・身長の高低は名誉にあたらない等主張するが、前記二において認定した事実及び第一記事自体から、本件第一記事における「チビ・ブス」なる語は原告ら四名の人格的評価にまで向けられており、かつ侮蔑的意味をもつて使用されていることは明らかであるから被告らの主張は採用することができない。

以上のように本件第一、第二文書は、原告ら四人の人格的価値について評価をなし、或いは具体的事実を摘示して、同人らの人格的価値についての社会的評価を低下させるものであり、原告ら四名の名誉を毀損するものと、一応認めることができる。

3  もつとも、被告らは、本件各記事の掲載及び各文書の配布行為は、原告らの分派活動あるいは組合費不払の組合規約違反等に起因するものであるから、違法性がない旨主張するので、この点について判断する。

昭和五六年三月の組織分裂以後、被告組合は全金支部組合員らを被告組合の組合員であるとの立場をとつていたこと、訴外会社は当初全金支部の組合としての存在を認めなかつたが、昭和五八年一月ころから中労委の命令を受け容れてこれを認めるようになつたことは前記二において認定したとおりであり、右事実と証人相川城年の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし三を総合すれば、被告組合と訴外会社との間では、昭和五六年三月以後もいわゆるチエツクオフ協定が継続して適用されており、訴外会社は右協定に基づき全金支部組合員の組合費を含めて被告組合に交付していたこと、訴外会社は全金支部の存在を認めた後、全金支部からの同組合に対し全金支部組合員の組合費相当分の支払を求める旨の要求を無視できなくなり、右金員を債権者確定不能として供託することにし、昭和五八年一月分を同年二月九日に、二月分を二月二五日に、三月分を三月一八日にそれぞれ供託したことが認められる。

右認定事実及び前記二において認定した事実によれば、被告らが主張する、原告らの分派活動あるいは組合費不払の組合規約違反等は、訴外会社における労働組合としての被告組合と全金支部の二つの組合の併存・対立について自己の立場からのみ評価したものにすぎず、原告らの行為がこれに該当するものと即断することはできない。もとより被告らが自己の組合の正当性を主張することが許容されることはいうまでもないところであり、こうした論争の過程において、若干の誇張や攻撃的表現を伴う議論がされたとしても、その全体の趣旨、論調が組合の正当性に関する相応の節度のある合理的主張の範囲内に止まるものである限り、事柄の性質上、これを是認すべき場合もあるものというべきであるが、被告らの本件各記事における言辞は、もつぱら、原告らに対する低俗な人格的非難、中傷、揶揄に終始したものといわざるを得ず、明らかに右範囲を逸脱しているものと判断される。

したがつて、この点に関する被告らの主張も採用することはできず、本件各記事の掲載及び各文書の配布行為は、違法のものといわざるを得ない。

五  すすんで請求の原因5(被告らの責任)について判断する。

1  請求原因5(一)の事実のうち、被告下川が、本件各記事掲載当時、被告組合の書記長であり、機関紙「しんろ」の発行責任者であつたこと、並びに、同(二)の事実のうち、被告大谷が当時被告組合の代表者執行委員長であつたこと、本件各文書の発行・配布が被告組合の組合活動として行われたことはいずれも当事者間に争いがない。

2  前掲甲第一号証の一ないし二七、第二号証の一、二、証人相川城年の証言によれば、被告組合の機関紙「しんろ」は昭和五一年従来の月刊から週刊となり、同時にコラム欄が設けられ「みどりの小箱」と名づけられたこと、右コラム欄は寄稿という形式をとり寄稿者の署名はイニシヤルでなされるが、右寄稿はコラム欄創設当初から各期毎に六名前後の特定の寄稿者グループが作られ、これらの者が順番に担当していたこと、右寄稿者は現実には機関紙の編集責任者によつて選定され依頼されており、かつ、その寄稿者は大部分がその前後に被告組合の書記長或いは副委員長の要職についていること、「みどりの小箱」欄の寄稿者の原稿は一旦発行責任者である書記長のもとへ原稿のまま回され、書記長がこれを読んで内容を含めて検討したうえ記事として正式に印刷される手順になつており、書記長が最終責任者であることが認められる。

3(一)  右1、2の事実によれば、本件第一、第二記事とも一旦原稿の形で当時の書記長であつた被告下川のもとへ回され、同人が読み、その判断により記事として採用され印刷・配布されたということができ、右各記事は文面上明らかに原告ら四名の名誉を毀損するものであることは前記四において認定したとおりであるから、被告下川は本件各文書の配布により原告ら四名の名誉が毀損されることを認識して本件各文書を発行したものと認めることができる。したがつて、被告下川は原告ら四名の後記損害を賠償し、填補する責任がある。

(二)  また、右1、2の事実によれば、機関紙「しんろ」は被告組合の組合活動の一環として行われているものであるから、被告大谷は当時の代表者執行委員長として、発行の最終責任者である書記長を監視する等して本件各記事の掲載・各文書の配布を阻止すべき義務があるのにこれを怠つたものと認めることができる。したがつて、被告大谷は原告ら四名の後記損害を賠償し、填補する責任がある。

(三)  また、右被告大谷の不法行為は、当時被告組合の代表者であつた被告大谷が職務を行うにつきなしたものであるから、被告組合は民法四四条一項により原告ら四名の後記損害を賠償し、填補する責任がある。

六  請求の原因6(損害)について判断する。

原告出川ひろ子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告出川は昭和四〇年四月一日訴外会社に入社し、以後継続して訴外会社に勤務している者であるが、本件各文書の配布によつて、訴外会社内の多数の従業員に、社会的不適格者の如く流布され、廊下ですれ違いざまにチビ・ブスと言われる等の嫌がらせを度々受け、更には職場内の小集団グループから事実上排除される等いわゆる職場八分の状態におかれ、精神的苦痛を被つたことが認められ、原告大木、同五十嵐、同本山も同様の事由により精神的苦痛を被つたことが推認される。右認定に反する証人相川城年の証言は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に本件第一、第二文書の内容、配布範囲、原告らの社会的地位、その他本件に顕われた諸般の事情を総合勘案すれば、原告らの被つた精神的苦痛を慰藉するには原告各自につきそれぞれ金三〇万円の支払が相当であり、かつ原告ら四名の名誉を回復するためには別紙(一)記載の仕様による謝罪文の掲載及び配布が必要かつ相当である。

七  以上によれば、原告らの請求は、別紙(一)記載の仕様による謝罪文の掲載及び配布並びに被告らに対し各自、各原告に対し金三〇万円の支払及びこれに対する昭和五九年三月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二 倉吉敬 草野真人)

別紙(一)

一 謝罪文の形式

横七・二センチメートル、縦一五センチメートルの表罫囲みを設け、右囲み内に表題部分は五号活字(ゴシツク)、その他の部分は九ポイント活字(明朝体)

二 掲載条件

東京計器労働組合が定期に発行する組合機関紙「しんろ」の第一面に一回掲載

三 謝罪文の内容

左記のとおり。

謝罪文

東京計器労働組合昭和五八年二月二八日付発行の組合機関紙「しんろ」の「みどりの小箱」欄にあなた方を「チビ・ブス」などと中傷・誹謗する記事を掲載し、さらに昭和五八年三月一四日発行の「しんろ」の「みどりの小箱」欄にあなた方を「性格ブス・人格チビ」「いい年をして、まともな社会生活ができない輩にピツタリの言葉であ(る)」と中傷・誹謗する記事を掲載し、あなた方の名誉を毀損したことは誠に申訳ありません。

ここに深く謝罪するとともに、二度とこのような中傷・誹謗する記事を掲載しないことを誓います。

昭和  年  月  日

東京計器労働組合

同前執行委員長 大谷仁三

同発行責任者 下川逸夫

総評全国金属労働組合

東京地方本部東京計器支部

組合員 出川ひろ子殿

同   大木典子殿

同   五十嵐康子殿

同   本山陽子殿

別紙(二) 省略

別紙(三)

チビ・ブス・教授子女・ETC・・・・異色経営者の故田辺茂一氏の大手書店「紀伊国屋」の女子不採用ガイドとか。

ま、過去の経験などから入社後のトラブルが無いようにと、そんなものを作つたのであろうが時代錯誤も甚しい。

ところで以前この欄に書いた例の分派集団に何故か共通するイメージとして挙げた「根暗の偏執症」などはヒヨツトすると暴露されなかつた男の不採用基準なんぞに入つているかも。

さすが紳士の我が社だけあつて、失礼ながら小柄な方もちやんといらつしやる、まずは一安心。

先週は春闘の具体案作りに向けて代議員のフリー討論会が開かれたがなかなか活発、世の中の平均より多少高めの所で纒まりそうな雰囲気だが、特に若年層の声として「分派みたいに不満をあおり立てたり、多ければ多い程良いという方式はやめよう」といつた経済整合性を重視するものが多かつたのには、今後に明るいものを感じた。

さて、今回査問委員会に付された連中に女子が四人混じつているが「教授子女」を除くほぼ全ての項に該当するのではと思つているのは私一人か。

(A)

別紙(四)

先日A氏が本欄で、全金組合員と自称する四人の女性が、紀伊国屋の不採用基準であるチビ・ブスに該当するのではと、書いておられた。これに対して、全金支部なるところから、組合に対して抗議文なるものが来たそうである。

チビとか、ブスというのは個人の主観によるものであり、明確な基準があるわけではない。世の中には彼女らが、クレオパトラか揚貴妃かと見まがうような絶世の美人に見える人もいるかも知れない。A氏は素直に謝るべきだろう。ただし、万一そういう人がいれば。

しかし、疑問がある。それは、東京計器労組とは関係ないと言つて、組合の発行物など読まない筈が、何故この記事を知つていたかということである。

容姿の話はともかく、性格ブスという言葉がある。これは性格が悪いことであるが、人間として成長していないという意味で、人格チビという言葉を作つた。

いい年をして、まともな社会生活ができない輩にピツタリの言葉であり、「根暗の偏執狂」にも通じるのではないか。

ところで、私は可愛らしい『チビちやん』は大好きである。

(N)

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